|
||||||||
AM0:15 各流れのT詰所Uに男達が集合する。殆どが前日のPM9:00くらいから男達は来ている。
AM1:20 山小屋出発。各山櫛田神社の道に、一番山より順番に並ぶ。ここでT棒ぜりUが行われる。T棒ぜりUとは『清道入』するときに山のどこを担ぐかの取り合いである。熾烈な眼の飛 ばしあいにより決められる。勢い余って喧嘩にもなる。 AM4:59 一番山出発。タイムを競った男達のレースが始まる。 そして、5分毎に山が出発する。 |
||||||||
午前2時。細見、塚田クルーの先発隊は櫛田神社の境内で収音マイクを構えていた。 こんな夜更けにも関わらず神社の周辺は、祭の前の独特の喧騒であふれかえっている。水法被に締め込み姿の男たちが赤ら顔で笑い合っている。見物客達は自分も祭に加わっているという高揚感でざわめき、各局のTVクルーは年に一度の撮影チャンスを逃すまいとあわただしく動きまわる。 櫛田神社の境内に山のぼせ達が姿を見せ始める。一見するとTやくざの出入りUかと錯覚してしまう異様な緊張感が立ちこめている。 神社の参道は見物客で埋め尽くされている。清道前から冷泉公園へと続く土居通りには1番山から8番山までの各流れが待機している。さながら『F-1のスターティング・グリッド』のようだ。それをグルリと取り囲むように道の両側には見物客がいる。スタート前のかき手たちと緊張感を共有している。
桟敷席は既に超満員である。境内のあちこちに、「今こそが稼ぎ時!」と言わんばかりに夜店が活況を呈している。我々もご多分に漏れずフランクフルトを食べてみることにした。「う、マズイ・・はっきり言うが、凄くマズイ」。普通、祭りが持つその場の雰囲気で美味い等と感じるモノだが、今回は甘かった・・。 夜店の呼び込みの声や人々の喧噪、そして発電機のモーター音が一体となり、神事をことさら盛り上げようとがなりたてる。時折、それをかき分けるようにして、山の男たちのかけ声が聞こえてくる。この“追い山”が無事に行えるように参拝に来るのだ。
冷泉公園横には巨大な飾り山がいた。T八番山、上川端流れUである。その巨大な姿に圧倒される。昔は全ての流れがこれをかついだというのだから恐れ入る。その横では様々な屋台が賑わう。日本広しといえども、博多以外でこんな光景はまずお目にかかれない。 雄壮な『パドック』を闊歩し、しばし祭りのムードに浸る。その後、溢れ返る人並みをかき分けながら、我々は旧西町筋へと向かった。車が一台やっと通れるほどの小さな道だ。T舁き山Uはスタートするとこの狭い道も通って行く。少しでも舵とりを間違えば民家に突っ込みかねない危険な道である。その上、山はこの先の大博通りという片道3車線の大通りから90度に右折し、この旧西町筋へと突っ込んでくる。まさに針に糸を通すような正確さが必要とされる難所だ。 午前4時30分、大博通りにでる。既に交通規制がかけられ、東長寺前の清道には道をせき止めるようにして、人だかりができていた。携帯電話で連絡をとりあうもなかなか細見クルーと出会えない。それだけ人だらけなのだ。片道3車線もある巨大な通りがシンと静まり返っている。しかし、その脇には山のぼせの野次馬がひしめき合う。 ちょうど地下鉄の駅付近でようやく細見クルーを発見、一旦合流する。 細見クルーは一番いいアングルで音を狙おうとするため、野次馬どもと小競り合いが繰り返していた。毎年、櫛田入りの音だけは記録していたので、村上クルーは山を移動で追うことにする。大博通りを離れ旧東町筋へと急いで向かった。時は刻一刻とその瞬間に迫っている。 午前4時59分。一番山千代流れがスタート、ついに“追い山”は始まった。 山は櫛田神社を出ると国体道路を通って、東長寺前の清道を廻る。次に、承天寺前の清道を廻る。この三つの清道を廻り、旧東町筋に入る。聖福寺前を通って、奈良屋小学校の所で、大博通りに入り、そこから旧西町筋にはいる。全行程約5キロの道のりを山は全力疾走する。 細見クルーは大博通りの清道旗の近くで、そこを通っていく「山」の音を録ろうと、道いっぱいにあふれる群衆の中でマイクを持って立っていた。その目の前をつぎつぎと「山」をかつぐ勇壮な男たちが通過していく。 村上クルーは、旧東町聖福寺前で山が来るのを待つことにした。聖福寺は日本最古の禅寺である。外から見ると森の中にひっそりとたたずんでいるようだ。この通りにはまだ昔ながらの博多の町並みが少し残っている。民家の前には勢い水が用意され、この通りも見物客でにぎわっている。 もう5時を回っていた。カメラクルーの武田がアパートの上から俯瞰で待ちかまえる。 一番山は既にこちらに向かっている。いやが上にも胸が高鳴ってくる。遠くで男たちの声が響いている。やがてそれは大きくなり、かけ声へと変わって行く。 ようやく我々の前に姿を現した。目の前を男達が駆け抜ける。熱気が我々を襲う、勢い水が激しくかけられる。 男達はそれを全身に浴びながら、『かけ声をかける』、『走る』、『怒鳴る』、『山を舁く』。山は我々の予想をこえるスピードで聖福寺前を通過する。何百人もの男達が一つになって駆け抜けるのだ。本当に一瞬の出来事だった。
日本の心だ。 山を追って我々は、旧東町筋に入った。この狭い路地を舁き山が走る。見物客は皆、道の両側に並ぶ家の軒先、壁沿いにへばりつくように並んでいる。その間を山がかけぬけて行く。我々のすぐ目の前を山が走る。人々の視線が、山を追う。山は大勢の視線を浴びながらゴールまで疾走する。博多の街は今山と一体となる。 空が少しずつ白み始めてきた。 |