7月15日-2
山笠のハイライト!
         
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[real audio 28.8]
録音担当:塚田大
 追い山のもう一つの見所はタイムを競い合うことだ。平均時間30分前後のしのぎをけずる。決勝点となる須崎問屋街のT回り止めUの真横に位置する、石村偶聖堂の二階の窓から完走タイムがかきだされる。

 幸田時計店はその計測係を3代にわたって務めている。ご主人は懐中時計で時刻を確認し、出発を太鼓うちに知らせ、2人の息子さんがタイムを計っている。 

 決勝点では次々と山がゴールしていた。ゴールするとT祝いめでたUとT博多手一本U。殆ど間髪いれず自分の流れに帰っていく。報道関係者、野次馬の群がひしめきあう中、我々は立っているのがやっとだった。 
 

 細見クルーが櫛田神社へ戻ってみると、先ほどまでの喧噪が嘘のように普段の静寂を取り戻そうとしていた。白々と夜が明けた家並みに雀が飛び交い、遠くには今も尚決勝点をめざして走る男達のかけ声がこだまする。家路につく者、清道や神社を背景に記念撮影をする者、その辺に座り込んでビールを片手に飲み直す者、それぞれがそれぞれの型で山笠の余韻を楽しんでいる。

 神社の境内では15人程の楽士たちによって“鎮め能”が行われていた。“追い山”で荒ぶった魂を鎮める儀式。雅な笛や鼓の音が辺りを包み込む。そのゆったりとした荘厳なる音色は、行事が終わり興奮さめやらぬ人々の心を平静に導いていく。 

 その余韻をかき消すように突然サイレンの音が響いた。消防車4台が細い路地に入っていくのが見える。空を見ると真っ黒な煙が上っている。火事だ。機材を抱え現場へ向かった。肉体の限界を超えたはずの体が、機材の重さが気にならないほどよく動く。火事場の馬鹿力である。

 現場に着くと火はすでに鎮火していた。 現場は西流れの山小屋のすぐ近くであった。法被を着た長老達が消防車の退車の邪魔にならないように野次馬の人垣を整理している。

 そこへ 決勝点から西流れの山が戻ってきた。細い路地に山と消防車がにらみ合う格好になった。消防車は山があるためバックで戻ろうとするが、野次馬の人垣が邪魔をしてなかなか動くことが出来ない。山の男達もいらいらして野次馬や消防車に罵詈雑言を浴びせる。それを見かねた一人の長老が野次馬に水をかけだした。

 「どいちゃらんかー!山がはいられんめーが!!」

 他の長老達も水をかけだした。否応なしに野次馬達は退く。なんとか消防車4台が退車し、山が山小屋に入れた。

 山を囲んだ男達が一斉にT祝いめでたUを合唱する。そして、T博多手一本U。山の元締めの挨拶の後いよいよT山くずしUに移る。 

 T山くずしUとは、山を飾った人形や装飾品をその場で壊し、台座だけの山を櫛田神社に返還し、崩された人形を山の男達皆で分け合って縁起物として家に持ち帰るというものだ。 

 挨拶も終わり男達は元締めの合図を待つ。「はじめ!」の合図で一斉に男達が山にかけ登る。人形の頭の部分を我先に奪おうと乱闘が始まる。山から蹴落とされる者、殴り合って血を出す者、それを制止しようとする者、壮絶な乱闘が繰り広げられている。観客も「やれやれー!」とヤジを飛ばし、乱闘は益々エスカレートする。 

 しかし、そこには乱闘といった安易な言葉で片づけられない男達の山との決別の姿があった。

 しっかりと固定された人形がものの5分程ではぎおとされた。元締めの終了の合図とともに台座だけの山が男達によって空高く掲げられる。そして「いやー!」のかけ声で山が再び動き出し、櫛田神社へ走っていった。 

 普段の静寂を取り戻した櫛田神社。そこには、さきほどまで殴り合っていた男達が、来年の山笠でまた会おうと堅い握手を交す姿があった。

 もうすでに来年の山笠は始まっている。

もう一回読むくさ!表紙にもどるったい!いやあ、よかもんば読ませてもろうたあ!