ドラマ新銀河「愛情旅行・総集編」より
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平成9年3月にNHKで放送されたドラマ新銀河『愛情旅行』が再編集され、平成9年12月放送された。そもそもドラマ新銀河『愛情旅行』は一話20分を4夜連続放送するもので、その4話を1本にまとるというものでした。 |
当たり前のことだが、どんな番組でも演出家(ディレクター)と打ち合わせをしていきます。今回の『愛情旅行・総集編』も前回と同じスタッフで行われました。“映画監督”を夢見る、若手ディレクター井上。私こと細見浩三。そしてNHK大阪放送局の音響効果部から高橋一郎氏。それ以外に、プロデューサーである制作統括(番組の責任者)が出席した。
ディレクターが開口一番に、
「ハート・エ〜ンド・ワーム(ウオームのこと)、そしてドラスチックでポ〜ジティブに仕上げたいんだよね!」
と、前回の内容不十分であった点を隠そうと、無い物ねだりをする。周りを見るとみんな「う〜む・・」と念仏をとなえていた。そこへプロデューサーが追い打ちをかけるように言葉を放つ。
「そうそう井上ちゃんの言うとおり。今回は、若干!テンポ・アップ!ハートエ〜ンドウオーム。そして、どかん!」
「どかん・・。・・う〜ん」
次に、オープニングをどのように組み立てるかを話し合う。前回の連続モノのように、イントロダクション的要素で一話を作りきるワケにはいかない。ディレクターが言った。
「トランジットなモチベーションが、ナウなヤングのハートにメランコリックなんだよね〜」
「・・・・・・」
ワケがわからない・・。
謎の暗号のような言葉の応酬を聞いていると、遙か中国揚子江から移民船に乗ってきた私の先祖のことを思い出す(大嘘)。とにかく、“映画監督”を気取るディレクターもさすがに困った様子だ。煮え切らないディレクターの支離滅裂な言葉に、皆、煙草の量が増え、貧乏揺すりをする者さえ出始めた・・・。(打ち合わせとは、このようなものかもしれない)
準備した音を映像に合わせて処理していく作業に突入する。MAとは、Multi Audioの略です。
今回のMA作業、6mmテープと「AKAI DD-1000」の併用。この「AKAI DD-1000」は音編集をデジタルでやってしまう機械である。DTM等で人気のプロ・ツールのような機械だと思って下さい。
普通、作業の流れは音楽等を6mmテープに録音して、デルマと呼ばれる色鉛筆の様な物で編集する箇所に印を付け、編集専用のハサミで切り、編集専用のスプライシング・テープで繋いでいく。ところが、この「AKAI DD-1000」の売りである【非破壊編集】は一度内部のMOディスクに音楽等を録音したら、どこをどう編集しても元の音楽等は、そのままと言うのである。
要は、編集が失敗したからと言って、音楽等を録音し直さなくて良いのである。しかもSMPTE入力が有り、VTRのタイムコードを入れてやると同期するし、ステレオ・アウトが二系統あるので、6mm二台分の役割をこなす。
例えば、はっきりとしたビートのない“バッハの無伴奏組曲”などをハサミで編集することは基本的には無理である。通常は二台の6mmを使って、一台目が前半、二台目が後半と振り分けて、編集がバレないように互いの6mmをフェード・イン、フェード・アウトさせ、少しだけオーバー・ラップして乗り分けていく。しかし、この「DD-1000」は、内部で前半と後半を振り分け、オーバー・ラップする時間を設定したら自動でやってくれる便利な機械だ。誰か「AKAI DD-1000」を安く売って下さ〜い(なんのこっちゃ)。
東京や大阪あたりでは6mmは既に死語になりつつあるようです。しかし、我々の環境ではまだまだ現役で頑張っています。MDとかMOとかDATとかCD-Rとか・・色んな機種が出回っているので、業界内でも「どれがいい」というのは、まだ見えていないようです。マルチ本体は、数年前からロジック社のハードディスクレコーダーを使用しています。
作業はこの道35年の大先輩、高橋一郎さん(通称【いっちゃん】)と御一緒させていただきました。ドラマの本数は数え切れないほどこなしたというベテランです。この高橋さんがまた面白い人で、「ピラミッドの謎・イースター島の謎・ナスカの地上絵・ムー大陸の謎」といった世界の七不思議に精通していらしゃる。話によるとグラハム・ハンコックの【神々の指紋】等は、完全読破され、近いうちにエジプトへ旅行されるらしい。「大変興味のある世界だ」。私は、興奮してしまい時間の経つのを忘れて話しまくった。
何はともあれ、作業開始。やはり、前回やったからといってスムーズに事は進まない。オープニングでいきなり難航。情報だけだと飽きられる、雰囲気重視だと物語が解らなくなる。
島の飲み屋のシーン。ここでは、島の漁師達が集って酒を交わしています。臨場感を付けるためにBGMで演歌をかけようと思っていました。すると自称“映画監督”を気取るディレクターが、
「ここにどんなBGMをかけていいか迷ってんだよね〜、演歌じゃダサイしね〜」
「じゃぁ、どうすんの?」
「ポジティブで、かつメランコリーでサイケがいいね〜」
「ク・・クレイジー・・・・・」
訳の分からない事を言い出したのでとばして先を急ぐことになりました。ちなみに前回は、“サントワマミー”でした。
昼休みになり、【いっちゃん】と二人で昼飯に出かけました。店では70年代後半のポップスが有線でかかっている。“ピンクレディー”“沢田研二”“キャンディーズ”“ゴダイゴ”といった具合。【いっちゃん】も「珍しいですな〜」とつぶやいていました。
そこに、自称“映画監督”を気取るディレクターらしき人物が店に入ってきて、我々の視界に入らない席に着きました。似たような輩はいるからなぁ・・と思い気にしませんでした。
昼飯を終えてMAルームに戻り、一服していたところに自称“映画監督”が入ってきました。
「細見さん。よ〜く考えたんだけど、なんていうかな〜、島の飲み屋のシーンは、ポップでなきゃいけないと思うんだよね〜。しかもハート・フルで熱くて、じ〜んと来る感じ?」
と言い寄ってきました。何を言っとるんだ、この肥後のサル軍団!と思い、「で、なんにしたの?」と尋ねると、井上は自分の手元に一枚のCDを差し出しました。
『70年代・日本の歌謡曲全集』と書かれたCDでした。しかも、その中の沢田研二“ダーリン”を指定してきたのです。
「オ〜マイゴット・・・」それ以降、作業も順調に進み、無事ON AIRとなるのでした。
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